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経営環境の激変下において経営再設計を考える

今、中小建設業を取り巻く経営環境が激変し、新しい時代の経営のあり方が問われています。ここでは、重要な環境変化を確認し、経営再設計の重要性を考えます。

長く続く原価高騰トレンド

新型コロナの感染拡大は「原材料の供給混乱・価格高騰」など大きな混乱をもたらしました。ロシアのウクライナ侵攻は「エネルギー資源・材料費の高騰」をもたらしました。この2つの大事件が収束した後も、エネルギー高騰や材料費高騰は続くと指摘されています。それは、西欧が権威主義国家へのサプライチェーン依存度が高すぎると問題発生時のリスクが大きいと考え、比較的コストが高い西欧寄りの国のサプライチェーンの再構築に動いているからです。これは中小建設業の原材料費・燃料費の高騰が長く続く可能性を示唆しています。

国策としての賃上げ

昨今の物価高騰を背景に、国策としての人件費UPが打ち出されました。それに大手企業も同調し賃上げを断行しています。中小企業においてもその流れが始まり、これから賃上げが本格化すると思われます。まだ多くの中小企業が、「価格転嫁ができない状況にあり賃上げは難しい」と考えているようにお聞きします。
しかし、中小建設業でもこの流れに対応できないと、「人材採用」ができないばかりでなく「人材流出」につながる可能性もあります。これは中小建設業の死活問題であり人件費高が長く続く事を示唆しています。

2024年からの残業規制適用

残業規制の適用は中小建設業にとって大きな問題です。これは本来業界全体で改善しなければならない問題だと考えます。繁忙期・閑散期の波を解消するための発注者の変革、無理な工期設定の改善等々。
しかし、それを待っていては問題は解消されず中小建設業にしわ寄せがくるだけです。残業が制限されるという事は、人材の投入を増やしたり、外注先への依存度を高めたり、移動時間削減を意図した営業エリアの見直しを迫られたりと、様々な経費高につながる可能性があります。労働時間の制限からせっかくの案件を受注できないという最悪の事態も想定されます。

経営再設計の重要性について

これらの経営環境の変化は、中小建設業の収益構造に重要な影響を及ぼします。従来よりも材料費は高まり、人件費も高くなり、外注依存度が高まり、現在の経営モデルでは恐らく低収益化・赤字拡大をもたらす事でしょう。3%5%程度の経常利益は消滅してしまう可能性を秘めています。今、環境に適応するための、「新しい財務モデル」とそれを実現する「経営モデルの再設計」が大変重要です。

材料費高騰に関しては、国交省も発注者や元請企業に対して適正な発注金額を促す動きをしていますし、今後もそうするでしょう。賃上げに関しては政府も価格転嫁促進に向けた政策を打ち出す可能性があります。

しかし、元請・一次下請け・二次下請けと商談が進むうちに、無理難題を言われる事も続くと思います。それを飲み込んで赤字受注をするようでは低収益化又は赤字拡大の要因となります。言い値でとりあえず受注するとか、概算見積で受注するというのはリスクがあります。適正な価格交渉ができるよう積算を徹底して根拠のある見積金額で商談する事が不可欠です。適正な取引をしてくれる顧客構造を作るための営業活動も不可欠でしょう。遠方工事が多い建設業では、営業・施工エリアの見直しとそれを受注できる構造づくりが必要かもしれません。

もう一度、現在の財務(決算書)の中身を確認し、今後どのような財務を実現するのか、その為の経営再設計はどのようにあるべきかを考える時期に来ています。

経営環境の変化が財務に与える影響を知る

中小建設業を取り巻く今後の不透明な経営環境は、財務(決算書)にどのように影響を及ぼすのでしょうか。まずはしっかり認識することが必要です。

環境変化が財務に与えるインパクト

原材料の高騰、賃上げ、残業規制という大きな環境変化が財務にどの程度の影響を与えるのでしょうか?
下の例は、TKCがHP公開しているBUST要約版に掲載された、内装業の黒字企業の平均値を参考に加筆しています。

黒字企業 ケース1 ケース2
売上 184,608 184,608 184,608
変動費 124,608 130,259 130,259
限界利益 60,551 54,349 54,349
人件費 36,252 38,064 39,967
その他 17,129 17,129 17,129
経常利益 7,170 ▲844 ▲2,747

 
黒字企業平均では、売上184,608千円で経常利益が7,170千円出ています。ここから法人税納付や借入返済をすると、黒字平均でもキャッシュはあまり増えないという状況でしょう。

ケース1では、変動費(材料費・外注費など)が5%UPし人件費も5%UPした場合の試算です。これだけで▲844千円と赤字に転落してしまいます。法人税はなくなり法人住民税の均等割りだけになりますが、借入返済をするとキャッシュは減少していくでしょう。(減価償却費分は費用支出なので返済原資ですが)

ケース2では、更に人件費が5%UPした場合の試算で、▲2,747千円と大幅な赤字になってしまいます。これは事業でキャッシュが減り、更に借入返済でキャッシュが減るという水準の決算です。

原材料の高騰と賃上げのインパクトは大変大きいものがあります。

価格転嫁はできるのか?

この環境に適応するには、もちろん価格転嫁が不可欠です。下記はケース2を価格転嫁で乗り切るための計算をしたものです。

ケース2 価格転嫁
売上 184,608 194,525
変動費 130,259 130,259
限界利益 54,349 64,266
人件費 39,967 39,967
その他 17,129 17,129
経常利益 ▲2,747 7,170

売上を184,608千円から194,525千円と、105.4%にしなければなりません。すなわち同じ条件の工事で、5.4%の値上げを要求する事になります。
当然客観的な積算をし、適正価格で受注できるよう交渉すべきですが、すんなりと価格転嫁に応じてくれる顧客ばかりとは言えないのが心配です。

薄利でも受注を増やせばいいのか?

利益は薄くても、もっと受注を増やして乗り切るという作戦も考えられますが、工事が増えるという事は現場管理も増え、人手もいるし、外注も増やさなければならないというジレンマがあります。

人材採用も難しく、残業規制も始まる中で、薄利多売はなかなか難しいのではないでしょうか?

これまで多くの中小建設業の決算書を拝見し、営業活動をお聞かせいただきましたが、受注を優先にあまり利益を考えずに営業している企業ではほとんどが赤字か低収益でした。「せっかく営業力があるので、儲かる売上を取りに行きましょう!」とお話する事が多く、それを実践して頂いた企業は一気に黒字が増えました。

薄利多売の作戦はリスクが大きいように思えます。

まとめ

財務への影響について事例をもとにご紹介してきました。目下の課題である原材料の高騰と賃上げのインパクトは想像以上に大きいことがよくご理解いただけたのではないでしょうか?

それぞれの会社の特性を踏まえ、どんな対策をすればどんな決算書になりそうかという試算をもとに、経営再設計に取組んでいただけたらと思います。

キャッシュを最大化する仕組み 第1回「キャッシュフロー最大化の視点は6つ」

キャッシュを最大化するためには、6つの視点があります。その全体像を解説いたします。

キャシュフロー最大化の視点は6つ

会社の「現預金残高を最大化」するために取り組むべき事を見ていきましょう。

キャッシュフローとは、1年間経営してきた結果、「現預金残高がいくら増えたか」を表すものです。
もちろん、それは大きなプラスがいい事はご理解頂けると思います。

キャッシュフロー改善ツリーをご覧ください。左のキャッシュフローを増やすことが目的で、右に行くほどその手段が展開されています。
図1
上表からキャッシュ最大化の為には大きく6つの視点がある事がわかります。
(1)売上を拡大する事はできないか? (2)変動費の削減はできないか?
(3)固定費の削減はできないか?   (4)運転資金差を減らせないか?
(5)投資は営業CFの範囲か? (6)借入返済は営業CFー投資CFの額で収まっているか?

これらの視点の「どこに注力するのが最も効果的か」「どの順番で取り組むべきか」は後で解説します。

では、言葉の意味もお伝えしながら、ご自身で改善ポイントを探せるように次回より解説させていただきます。

キャッシュを最大化する仕組み 第2回【第1の視点】売上を拡大することはできないか?

キャッシュを最大化のための第1の視点は「売上」です。売上を拡大するためにはどうすれば良いか、その“ツボ”の探し方を解説いたします。

利益とキャッシュを生む売上と、そうでない売上

売上を拡大する事にはどの社長も関心を持つでしょう。
しかし、利益と資金を最大化する事を目的にすると、利益とキャッシュを生む売上と、そうでない売上の見極めが重要であることに気づきます。

 「利益を生まない売上」 とは、
●安値取引しかしない顧客の売上 
●外注費などの外部コストが大きな売上
●不得意な工種や金額規模で赤字になる売上 などを指します。

 「資金を生まない売上」 とは、
●回収までの期間が長い売上
●工事原価の支払いまでの期間が極端に短い売上
●多額の未成工事支出金の負担で中間払いがない売上  などを指します。

 逆に、「利益と資金を生む売上」 とは、
●利益率が良い売上
●回収までの期間が短い売上 です。

当然、極力そのような売上を増やすために経営資源を割くべきです。このような売上の中身の分析は、下記のような表で分析すると明らかになります。
図2
この表の場合、山田建設さんが、利益率も高く回収期間も短く、かつまだシェアが低いので受注を伸ばせる余地もあると考えられますので、積極的に営業に力を入れたい顧客です。

この表は顧客別の分析ですが、会社の特性に合わせて工種別・受注金額層別・地域別などの区分で分析しても結構です。

売上を因数分解して考える、ツボを押さえる

漠然と売上拡大を考えてもなかなか効果的施策は生まれません。
例えば、「売上=顧客数✕1顧客あたり受注額×受注単価」で分解して考えてみましょう。

更に、顧客数を増やすには、「新規顧客開拓」「開拓した顧客からの継続受注促進」等に分解できます。また顧客からの受注増加も「まだ受注をもらえてない発注担当(部門)への営業強化」とか「まだ受注できてない工事分野(工種)の営業強化」などに分解して考える事ができます。

このように、売上を更に因数分解して、売上拡大の “ツボ” を探して施策を考え行動しましょう。
中小企業ではあれもこれも一度に取り組む事は難しいので、今年のテーマ・来年のテーマと、「重点項目を設定して」、「ひとつづく実行していく事」が重要です。

重点項目の決定は売上だけでなく「利益が残る売上を増やすツボはどこか?」を考えて決定しましょう。
参考までに、下請業態の建設業の売上拡大のロジックツリーを載せておきます。
左が売上拡大という目的、右にその手段・施策と展開されています。
図5
住宅工務店やリフォーム事業のB2Cの元請業態の売上拡大のロジックツリーも載せておきます。
左が売上拡大という目的、右にその手段・施策と展開されています。
図6
■コメント■
弊社及びパートナーコンサル(会計事務所等)がご支援する全国の中小建設業様は、最初は単価改善は難しいと仰るケースが多いようですが、キチンと積算をして適正利益を確保できる見積書で商談して頂くと、単価適正化=工事利益適正化につながっています。

下請・元請ともに改善出来ています。中小建設業では、単価最適化を制約として捉えず、改善対象として鮮明に認識する事が極めて重要だと感じています。

キャッシュを最大化する仕組み 第3回 費用を削減することはできないか?

キャッシュを最大化のための第2の視点は売上が増えるに伴って増える「変動費」です。そして、第3の視点は、売上の増減に関わらず一定額の「固定費」です。それらのコストダウンを考えるためのポイントを解説いたします。

【第2の視点】変動費の削減はできないか?

変動費とは売上が一単位増えるに伴って比例的に増える経費を指します。
一般的には、材料費・外注費といった原価がそれにあたります。

この変動費は、建設業や製造業など仕入れた材料を加工する業種や、外部委託が多いサービス業などでは、売上に占める割合が高い事が多いので、削減できると利益と資金の増加に大きく貢献します。

「いやいや、材料費は高騰しているし、外注先も人件費が高くなっているのでコストダウンは難しいよ」という声も聞こえてきそうですね?でも、これもしっかり要因分解をしてみると改善点が見えてくるかもしれません。

例えば、外注費は「購入数量✕購入単価」で因数分解し、更にその改善の切り口を展開すると下記のように要因分解できます。
図7
■コメント■
弊社及びパートナーコンサル(会計事務所等)がご支援する全国の中小建設業様でも、はじめは変動費削減は難しいと仰るケースが多いようですが、キチンと考えて手を打つと、大きなコストダウンにつながっています。

中小建設業では、変動費の削減を制約として捉えず、改善対象として鮮明に認識する事が極めて重要だと感じています。

【第3の視点】固定費の削減はできないか?

固定費とは、売上の増減に関わらず一定額かかる経費の事です。人件費、家賃、広告費など毎月ほぼ一定額の経費が発生します。

これは、各勘定科目(決算書や試算表に掲載された項目)の内訳明細を作って支出項目ごとにコストダウンを検討すると良いでしょう。

コストダウンの視点は、
●その支出を止める
●その支出の回数を抑える
●その支出の単価を安くできるように交渉する  の3つです。

参考までに旅費交通費の内訳明細と考察例を載せておきます。
図8

キャッシュを最大化する仕組み 第4回 キャッシュフローを安定できないか?

キャッシュを最大化のための第4の視点は立替えた金額を考える「運転資金差」です。

そして、第5の視点は、固定資産への投資を考える「投資キャッシュフロー」です。

最後の第6の視点は、借入金について考える「財務キャッシュフロー」です。

それらを考えるためのポイントを解説いたします。

【第4の視点】運転資金差を減らす

少しやっかいなのが「運転資金」です。
運転資金とはビジネスに必要な掛け取引で、「立替えた金額」と「立替えられた金額」の差を言います。
もちろん「立替えた金額」が大きいと資金が少なくなってしまいます。

立替えた金額とは「売掛金・受取手形・未成工事支出金」などの残高を指し、立替えられた金額とは「買掛金・未払金」などの残高を指します。

例えば、受注や売上は伸びても回収が遅く売掛金が大きくなると現預金は増えません。

売掛金や受取手形の残高は、ずばり顧客からの「回収サイト」が影響します。
「大口顧客で回収サイトが長い!」というお悩みはまだ多いようです。

もちろん、回収サイトの交渉を1年・2年かけて行う事も大事ですが、思い切って「回収サイトの短い中口・小口先の新規開拓」で経営体質を変える事ができたケースも多々あります。
ついでに粗利益率もとても良くなりました。
また、仕入先・外注先の支払いサイトが短すぎるケースもあります。

仕入先に無理難題を言うのは難しいと思いますが、「支払いサイトは適切か?」という検証も必要です。
回収・支払いの資金についても戦略的に取り組む必要がありますね。

【第5の視点】投資キャッシュフローが過度な負担にならないようにする

新規営業拠点開設費とか新規設備投資の金額を投資と言います。
それらの投資は「営業キャッシュフローの範囲で行う」というのが資金安定化の原則です。

但し、自己資金だけで新しい投資をするというのが難しい場合は、次の財務キャッシュフローの「新規借り入れ」によって不足資金を補てんする事になりますが、後々の事を考えると極力自己資金を貯めて投資に回したいものです。

また、過去に投資した土地などがキャッシュフローのネックになっている場合もあります。
営業キャッシュフローに貢献していない資産は換金して資金余力を持つ方が次につながるというケースもあります。

中には、経営者や親族、更には仲の良い経営者仲間に貸付をしてしまっているケースもありました。
これも会社の資金を圧迫しますので、計画的に回収するべきものですね。

ちなみに、役員報酬が少ないために役員に貸付するというケースがありますが、これはしっかりと必要な役員報酬をもらって、それをもらえる決算書になるように努力するという本筋の考え方を持つ方が良いと思います。

【第6の視点】財務キャッシュフローのマイナス(返済)が過度にならないようにする

これは、新規借り入れによる資金の増加と返済による資金の減少を表します。
借入の本数が増えると、毎月の返済負担が大きく、現預金が減る要因となります。

もちろん、借入契約の通りに返済できるだけの営業キャッシュフローを生み出すのが原則です。
しかし、仮に営業キャッシュフローはそれなりに生み出せているのに、過去の融資の積み重ねでその返済額が営業キャッシュフローを超えているような場合には、銀行との様々な交渉が必要になります。

いわゆる、借り換え・借入金の一本化、難しい場合はリスケなどの交渉です。
その際には、銀行に対して誠意をもって実情を話し、実現可能性の高い経営計画を見せキチンと説明したうえで、協力を仰ぐ必要があります。

一般的に、リスケや借入の一本化を受け入れてもらえた場合、現状ではそれ以上に返済できる力がないという事を意味しますから、新規の借入はしばらく困難になると思います。
従って、何が何でも必要な営業キャッシュフローを生み出すという決意と行動が必要になります。

キャッシュを最大化する仕組み 第5回 利益と資金を最大化する順番は?

キャッシュフロー改善に取り組みためにはどのような順番で取り組めば良いかを考えるためのポイントを解説いたします。

営業キャッシュフローと借入返済の関係で考える

・利益と資金を最大化する順番

キャッシュフロー改善に取り組む際にはどのような順番で取り組むと良いのでしょうか?
これは、会社の状況によって異なりますが一般的な視点を提示します。
営業キャッシュフローと借入返済の関係で大枠の方向性が決まります。

■営業キャッシュフローと借入返済の関係で考える
図9
A.営業キャッシュフローはプラスで、借入返済もそれ以内である場合
これは資金が増えていく体質ですから、営業キャッシュフローの更なる拡大に集中すればよいという事になります。

B.営業キャッシュフローはプラスだが、それ以上に借入返済がある場合
これは、今事業は順調ではあるが、過去の借入の返済負担が大きい体質である事を意味します。
一義的には、返済可能なレベルまで営業キャッシュフローを改善する事です。

それがどうしても難しい場合は、営業キャッシュフローの拡大に支障が出ないように銀行に協力を仰ぐこともやむを得ないところです。

C.営業キャッシュフローがマイナスで借入返済もある場合
これは、事業でキャッシュが減っている上に借入返済がある訳ですから、どんどん資金がなくなる危険水域にいる状態です。

何としてでも営業キャッシュフローをプラスにして、かつ銀行の協力を仰がざるを得ないところです。

D.営業キャッシュフローがマイナスで借入返済がない場合
これは数少ないケースですが、過去の経営で蓄積された資金があるものの毎年の事業は上手くいっていない状態です。

新しい戦略を含む営業キャッシュフローの拡大に注力すべきです。

あらたな戦略を構想する ~中小建設業の戦略オプション~

長年存続している企業は、常に自社のビジネスモデルを見直し、新たな戦略を描き、それを推進しています。日々変化する経営環境に如何に適応するかを考えて経営している訳です。

「新しい付加価値源を求めて、自社をイノベーションする」これは中小建設業にも重要な経営の取組みあり、常に構想をしておく必要があります。

ここでは、中小建設業において考えられる新戦略の選択肢をいくつか見ておきましょう。

同業態エリア展開モデル

これは今と同じ事業で、エリアを展開する事により成長経営を実現するという戦略です。
今と同じ事業ですから、営業ノウハウや設計・施工ノウハウ、経営管理システムなど、保有資源が活かせる戦略です。

同業態エリア展開モデルは、自らが人材を雇用し、営業拠点を新設していく方法もありますが、
昨今では事業譲渡をしたい同業者も増えていますので、M&Aによるエリア展開も一つの選択であると言えます。

市場特化モデル

これは、得意な施工分野に絞って成長経営を実現する戦略です。これも強みが活かせるという点で面白い選択肢です。また独自性が活かせる分、高収益な経営が実現できる可能性があります。

例えば、医療機関特化建設業、無菌工場専門建設業など、現在でも市場を特化して高収益な経営をしている建設業が存在しています。

市場特化は、顧客構造や施工分野が特定されますので、依存度の高い顧客構造にマイナス材料が発生した場合は、収益が悪化する可能性がありますので、市場の存在と成長性などを考え、永続性のある分野を選択されるべきでしょう。

ストック市場モデル

官需においては、インフラの耐久度UPの為の調査や補修の需要は伸びています。
民需においても耐震施工やリフォーム・リノベーション、既存施設の用途転換(例えば古民家の商業施設化)の需要は伸びています。

新設・新築とは異なる、診断技術・設計技術・施工技術を磨き、ストック市場における存在感を高め、シェアを高めるのも一つの選択肢でしょう。

国土強靭化モデル

日本は災害の多い国ですから、国策として継続的に国土強靭化に取り組む事になります。官需・民需ともに災害に強い構造物や建築物に投資する事は間違いないと思います。

その分野の企画・設計や施工に強みを蓄積して、選ばれる建設業になるのも一つの選択肢でしょう。

元請化モデル

これは、下請企業が元請化するモデルで比較的多くの取組みが見られます。しかし、下請企業の元請化で成功する例が多くないのも事実です。
その要因は、下請とは異なる経営資源を意識して獲得できていなかった事に起因するケースが多く見られます。

例えば、専門工種である屋根工事を下請けしていた企業が元請化するには、「見込客発掘のマーケティング手法」「お試し利用しやすいサービス企画」「リフォームに求められる診断・積算技法」「施主を対象とした商談手法」「消費者の目に触れやすい現場でのマナー」「リピートを意図した永続的な顧客管理手法」等など、下請けの時にはあまり必要なかった経営ノウハウが必要になります。

元請を目指す下請建設業は、このような元請化に必要な経営ノウハウをリスト化し、一つずつ獲得していかなければ成功しないのも現実です。

これらの選択肢は、建設業界の中で「どの市場を狙い他社と差別化していくか」という範疇の戦略です。
これらの他、「基礎工事会社が鉄筋製造業を兼業、同業他社にも販売」「内装工事会社が足場商品を開発して製造業にシフト」「自社で開発した業務管理システムを同業者に販売」といったように、建設業の隣接市場に進出して高収益型・成長経営を実現しているケースも見られます。

人が集まる魅力的な会社をつくる 第1回

人材採用はマーケティングと同じく、顧客に商品を売る活動と同じ視点が必要です。
顧客(この場合は応募者)に選んでもらうには魅力的な商品があることが不可欠です。応募者にとっての「商品」=「魅力ある会社」をつくることが大切なのではないでしょうか。 まずは人が集まる会社をつくることを考えましょう。

なぜ 建設業を選んだのか なぜやめてしまったのかを見てみましょう

建設業入職者が、会社を選んだ理由

建設業入職者が、会社を選んだ理由
厚労省の雇用動向調査から、就職した会社を選んだ理由を見てみましょう。
図1
全産業と比べて、建設業で会社を選んだ主な理由では、
労働条件がよい(19%)
収入が多い(12%)
会社の将来に期待できる(9%)
の3項目の選択率が高い結果が出ています。

同じく厚労省の雇用動向調査から、退職理由を見てみましょう。

ここでは定年や会社理由による退職を除いた、『個人的理由』を見てみます。
図2
建設業の主な退職理由は、
1位:収入が少ない(17%)   2位:会社の将来が不安(14%)
3位:職場の人間関係(13%) 4位:労働条件が悪い(9%)
となっており、全産業と比べて、「収入の少なさ」や「会社の将来不安」が退職理由になっている事を示しています。

多くの建設業経営者の方から、「きつい労働」や「若者の意識の低さ」が原因ではないかとお聞きしますが「労働条件が悪い」という回答は第4位であり、思ったほど中心的な原因とは言い切れないように見られます。

興味深い点として、入職理由 、退職理由それぞれに、収入、将来性について相反する回答があげられています。

現場監督、施工管理担当をやりたくない理由

職人さん不足もそうですが 施工管理担当者の人手不足も深刻です。現役 施工管理者、 元施工管理者へのアンケート結果です

Q1,現場監督、現場代理人をやりたいですか?
A1、 はい16.7% いいえ83%(社命なので仕方なくを含む)

Q2, 現場代理人の仕事で嫌いな業務は何ですか
Q2, 1位 見積もり作成、2位、施工業者の手配

Q3,現場代理人で好きな業務は何ですか
A,3工程管理

Q4,見積もり積算業務がなく 工程管理に専念できたら 魅力的ですか
A4, はい65.4%

Q5,魅力的な環境や 待遇 など 何かあったらいいなと思うことを教えてください
A5,
1位DX導入 時間短縮につながるアプリなどの導入 デジタル化
2位 人事制度導入
3位資格取得の支援

・これからの人材獲得・離職防止 ・定着率アップのためには

■会社の将来、ビジョンの明示
■給与アップの実現
■DX導入
■労働条件の検討

といった人やモノへ投資が必要 になります。
そのためにも キャッシュを増やし 黒字拡大していくことが大切になります。

人が集まる魅力的な会社をつくる 第2回

人材採用に成功するためには、応募者が他社と比較したとき自分の会社に興味を持ってもらえるよう最小限の処遇と労働条件を提示することが重要です。
「賃上げ」や「残業規制」など環境は変化しています。難しい課題ではありますが、実際の成功例を見てみますと、以下のような雇用条件を整えることで人材採用に成功しているのでいくつか紹介します。

日給月給制から月給制へ変更

建設業界ではまだ日給月給制の人材募集広告を多く見ます。
日給月給制 が 必ずしも悪いわけではないのですが、応募者にとっては、「工事ができない日は給与も無い」と思ってしまい、所得が不安定なのでは?という印象を与えます。
そのためか日給月給制より月給制の方が応募が多いのが現状です。

人手不足が深刻な場合、賃金総額のコントロールをしつつ月給制への変更を推奨します。
仮に今すぐ賃上げが出来ない場合でも、月給制への変更をすることにより応募者獲得の効果は期待できます。

天候などの影響で日給が出せなかった日の金額を計算して、その分が負担可能であれば賃上げの意味も含めて検討してみるのはいかがでしょうか?

週休2日制

だいぶ建設業界でも週休2日制は増えてきています。
しかしまだまだ、人材を募集する際に「週休2日」を条件提示することで、応募者を獲得の期待ができます。
実際は「工期に追われて休んでる場合じゃないよ」とか「 元請けに依頼されているから無理だよ」というのが本音かと思います。

この問題を解決するには、色々な工夫が必要ですが、人材採用と置かれている雇用環境を考えると、早めに取り組まなければなりません。

すぐに週休2日制を実現するのが難しい場合でも、まず隔週休日2日や年間休日数の増加などを検討したいテーマです。

残業時間の削減

これも大変難しいテーマですが、2024年の残業規制適応もあり知恵を絞らなければならないテーマです。
もし、求人広告に残業時間が少ない記載ができれば応募者を増やす効果は大きいです。

少なくとも求人広告に「残業削減に向けた取り組み」などの記載ができるようにしたいです。
たとえば社内でブレーンストーミングなどで改善策を推進して、募集広告に反映できるようにして頂きたいです。

残業時間の削減は、応募者のニーズに合わせた雇用環境を整えるためにも、取り組むべき重要なテーマです。